2013年6月3日月曜日

認識の方法「パラメータ」

1. レーダーチャートによる評価の実施
 第二回路地ゼミにおいて、奥性を評価するパラメータをレーダーチャートによって行うことが提案されました。下図のようなレーダーチャートをそれぞれの路地の写真すべてに対して作成し、評価していくというものです。その上で、奥性の強弱の評価とレーダーチャートの傾向との間になんらかの関係性を発見できないだろうか、という提案でした。奥性という感覚の問題と、数値化された値との関係を考察することで、感性を数値化し、パラメータとして表すという試みです。


 実際にレーダーチャートを用いて路地の奥性についての評価を411枚の路地写真・路地的なものに対して実施しました。
 評価方法は、まず路地の奥性の度合いに関わる要素として、明暗、多孔性、シンボル、H/D、不可視性、集積性の6つのパラメータを設定しました。そして、それぞれのパラメータに対して、一人が1~5の5段階で評価していきました。つまり、数値が高いほど奥性が高く、数値が低いほど奥性が低くなるということになります。例えば、明暗の場合では、暗いほど数値が高く、明るいほど数値が低くなり、不可視性の場合では、カーブの度合いや階段などによる高低によって路地の先が見通しにくいほど数値が高くなります。
 そのようにして評価したすべての路地に対して、6つのパラメータの評価の総合点を算出し、総合点の高い順に並べ、分析していきました。

【各パラメータの評価対象】

明暗 = 路地の明るさ
多孔性 = 窓、開口の数
シンボル = シンボルの有無
H/D = 建物の高さ/ 路地の幅
不可視性 = 路地の曲がり具合い、高低さ
集積性 = ものの溢れだしの度合い


2レーダーチャートによる評価の考察
 評価の結果、最高得点は24 点となり、満点30 点の8割となりました。また、平均的に各々のパラメータが高得点という路地は皆無であり、最高得点の24 点の路地は6 つのパラメータの内、1つが低評価となっており、それ以下の総合点23 点以下の高得点の路地は6 つのパラメータの内、2 つが低評価となっています。下図は、平均的に各々のパラメータが高得点をとっている路地ですが、これは3つの路地が評価の対象となっており、それによりパラメータが平均的になった可能性があるので、この路地がバランスのとれた奥性をもった路地とは考えにくいです。



2.1. 類型化
 レーダーチャートのかたちを比較考察していく内に、それらにいくつかのパターンがあることがわかりました。そのパターンは、ヨーロッパ型、アジア型という地域ごとに分類でき、それら地域の路地の基本的な性格を確認することができました。また、この類型化はほとんどのそれぞれの地域の路地に対して適用できることがみてとれます。このことから、このレーダーチャートによる奥性の評価方法の正確性が確認できたと考えられます。また、この類型化から、これらの型にあてはまらない各地域の路地の特殊性を発見することも可能になりました。


①ヨーロッパ型
 レーダーチャートのかたちとしては、集積性とシンボルの2つのパラメータの評価が低く、その他4つのパラメータが比較的高い評価を得ているものとなります。ヨーロッパの街路は、曲がりくねったものが多く、開口部も多数あり平屋がほとんどないため、不可視性、多孔性、明暗、H/D が比較的高くなります。反対に、街路にものがあふれ出していることはほとんどなく、不可視性が高いため、シンボルもたとえ街には存在していても、街路からは見えることはめったにないのです。




②アジア型
 アジア型のパラメータは、シンボルが低評価で、集積性と多孔性が高評価となっています。そして、明暗と不可視性が2~4の評価となり変動的ではありますが、概して下図のようなレーダーチャートのかたちとなります。アジアにおいては、建物内のものが路地に染み出しており、それがさらに路地を狭くしていることからも、集積性、多孔性、H/D の評価が高くなります。しかし、アジアの都市はシンボルとなるようなものに対して、街路を配することはごく稀であり、シンボルの評価も低評価となっています。





2.2. 絵画と路地の比較
 路地写真の中には、路地的なるものという意味で純粋な路地ではないものや絵画も含まれていました。それらも路地写真と同様に、6つのパラメータで評価し、レーダーチャートで表していきました。そうする中で、絵画のレーダーチャートと類似する実際の路地写真がいくつか見られました。下には、その一例となる組み合わせを示しました。こうした、路地的なるものと実際の路地を比較することにより、我々が路地と認識する何かを探し出せるのではないかと考えます。




2.3. 設計への応用
 総合点の上位の路地を比較してみると、それらのほとんどにアーチが見られ、それらが路地を横断するように架かっていることがわかります。下図は、総合で1 位や3位といった上位の路地です。実際に、上位10 枚の路地写真の内、8 枚にアーチ形が見られました。つまり、アーチ形があることにより路地の奥性が増していると言えます。このように、奥性評価の上位の路地写真に多く見られる要素を抽出することにより、奥性を増幅させている何かを見い出せてくるのではないでしょうか。これらの要素を数多く抽出していき、その要素があるときとないときでの違いなど細かく各々の要素がどのパラメータに影響していくのかを分析していくことで、設計に生かしていけると考えます。





2.4. 別の認識の方法の発見へ
 パラメータという方法で路地の奥性を評価していきましたが、その中でいくつかの良いと感じる路地があまり評価されなかったということがありました。1つ例を挙げると、下図の路地写真です。これは、総合点17 と6 割に満たない評価でした。しかし、この路地写真は評価の以前から魅力ある路地として皆から認識されていました。しかしながら、奥性に関してはあまり高い路地とは言えないようでした。こうしたことは、そういった良いと感じる路地が奥性では計れない魅力をもった路地なのだと思います。したがって、この路地を高く評価できる別の認識の方法を見つけ出していく必要が出てくるということです。しかし、逆に言えば、この奥性であまり評価されなかったが魅力ある路地を見つけ、それに対して評価の方法を別で考えることは、異なる認識の方法を発見していく上で有効な手段であるとも考えます。したがって、奥性評価に関しては、高得点の路地だけを比較、分析するだけでなく、低評価の路地の写真も同時に前述のような視点をもって、そうした手段として使っていかなければならないと思います。




文責:佐々木 崇

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